「無料のフリー写真素材サービス」は業界全体の底上げになる ―― ぱくたそ運営者すしぱく・Yuuインタビュー

「無料のフリー写真素材サービス」は業界全体の底上げになる ―― ぱくたそ運営者すしぱく・Yuuインタビュー

フリー写真素材サイト『ぱくたそ』は、2016年10月19日、写真の掲載数が10,000枚を突破した。所属モデルは約70人、カメラマンは約40人、そして月間アクセス数は300万PV以上と、個人運営の無料フォトストックサービスとしては、他に類を見ない規模となっている。

しかし、そんなぱくたその運営者については、詳しく知られていないのではないか。そこで今回は、2011年のサービス開始から、あまり表に出ることなく更新を継続してきた「すしぱく」さんと「Yuu」さんの2人にインタビューを実施し、ぱくたその理念とこれまでの軌跡、運営体制について話を聞いた。【プロフィール】

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すしぱく
ぱくたその運営管理人兼カメラマン。好きなキャラクターはてんどんまん。大好きな言葉は"楽しければいいのです。"※本名非公開/顔出し・体出しNG

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Yuu
ぱくたそのテクニカル・ディレクター。フリーランスのウェブ製作者として活動した後、ファンタラクティブ株式会社を設立、取締役に就任。デザイン、フロントエンドの実装、WordPressを始めとしたCMSやサーバ構築などが得意。共同著書に『現場のプロが教えるWeb制作の最新常識[アップデート版]』がある。

ぱくたそを「ウェブにいい写真が増える」きっかけにしたい

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――率直にお聞きしたいのですが。

すしぱく:はい。

――ぱくたそはあんまりお金にならないじゃないですか。

Yuu:(笑)。

すしぱく:そうですね。そもそも無料のサービスですし、Google AdSenseの広告収入も、年間のサーバー代、モデルさんのアサイン費、関係者の取り分を引いたら、まあ、儲かりはしません。

――なんで運営しているんですか?

すしぱく:(笑)。楽しいからですね。"楽しければいいのです"。

――[すしぱくさんのブログ]名だ。やっぱり、それがすしぱくさんの行動原理なんですね。では、そもそもどうして、ぱくたその運営を始めたんですか?

すしぱく:僕はもともとウェブ制作をやっているんですが、カメラマンさんに写真を依頼したときに、費用が高いと感じることが多かったんです。その割にと言ってはなんですが、納品されたもののクオリティーが期待以上になることが少なくて。それって、依頼する方としては損をした感じになって、悔しいじゃないですか。

そもそも、写真は撮って終わりじゃないですよね。現像して、レタッチして、初めて成果物になります。じゃあ、高品質の写真を撮影・現像して、ちゃんとレタッチして、という写真素材サイトがあれば、それがデフォルト、スタンダードになって、カメラマンと呼ばれる人の技術の底上げになるんじゃないか、と思ったんです。

Yuu:今、すべての写真をしっかりレタッチまでして、クオリティーを担保しているところは、ほとんどないんじゃないかな。カメラマンさんから上がってきた写真を、そのまま載せているサイトが多い印象です。

――ノーチェックで写真を掲載しているようなところは、権利関係も心配ですよね。フリー素材化されるにあたって、しっかり被写体からモデルリリース(許可)を取得しているのかなど、運営側がしっかり把握できない可能性がありますから。

すしぱく:はい。ぱくたそではそれもすべてチェックしています。

この前、とあるカメラマンさんに言われたのは、「ぱくたそ以上の写真を撮れないと、もう仕事がないね」と。「よっしゃー!」と思いました。

――実際に業界に影響を与えられたわけですね。

すしぱく:個人が趣味で始めたサイトがですよ。

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――でも、そうなると、困るカメラマンさんもいるのかな、と思いますが。

すしぱく:「写真を無料で配布するなんてプロじゃない」というようなことを言われることもありますが......。

Yuu:フリー素材サイトって、そういうものですからね。ウェブ制作者の立場としては、高品質なフリー素材サイトは貴重じゃないですか。

すしぱく:それに、もともとプロのカメラマンになりたい、というわけではないので。ウェブ上にいいコンテンツを増やしたいだけなんですよ。

Yuu:この前は「ぱくたそのこだわりがわからない」という匿名の問い合わせが来ましたね。「コンセプトも不明で理解しがたいものばかり」みたいな。

――それはまあ、"楽しければいいのです"がコンセプトですからね。

Yuu:ゾンビの写真なんて、僕たちもなんであれを撮ったかわからないですよ(笑)。

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すしぱく:「スマホと油揚げを間違える」という素材もありましたね。

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――意味とかないですよね、あれ(笑)。ちなみに、僕はすしぱくさんと本業のインタビュー取材などの現場で一緒になることもよくありますが、商業写真はちゃんとコンセプトに沿って、いい写真を撮ってくれています。

すしぱく:フォローありがとうございます(笑)。

Yuu:あと、「『ぱくたそ』は使いづらい」という意見を目にすることもあって。それは、"みんな使っているから"使いづらい、ということのようなのですが。

すしぱく:うちの写真素材は超高解像度なので、実はいくらでもやりようがあるんですよね。例えば、さっきのゾンビの写真の手元だけを、オシャレな女性向けファッションメディアが使ってくれることもある。実は被らないんですよ。

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――フリー素材の使い方は、わかっていない人もいるかも知れませんね。そのまま使っているだけで。

Yuu:これはまた別の記事にして紹介しましょう。

「仕事じゃない」からできることがある

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――でも、ぱくたそには多少、ミステリアスなところがありますよ。モデルになる前は僕も感じていました。誰が何をしているのかわからない、という。

Yuu:勝手に写真がアップされて、サイトが更新される。

――はい、実はソーシャルアカウントはすべてbotで、すしぱくさんなんていないんじゃないか、と。

すしぱく:"すしぱく"は襲名性ですから。今は二代目の"すしぱく"です。

――ウソですよね?

すしぱく:はい。

でも、それで言うとYuuさんの方が謎ですよ。『ぱくたそ』に一番関わってくれているのはYuuさんですが、あまり目立ちたがり屋ではないので、ずっと裏方に徹してくれています。一緒に運営を始めて、もう6年目です。

――どんな経緯で一緒に運営をすることになったんですか?

すしぱく:僕がぱくたそをオープンしたのは2011年5月でした。システムにはずっとMovableType(以下MT)を利用しています。当初はすべて自分でいろいろと勉強しながら開発していて、その年のMTのオフ会でYuuさんと出会ったんです。

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立ち上げたばかりのサイトはこちら。当時は1,000枚が目標だった。

Yuu:ですね。僕も勉強のためにその会に参加していて。席が近かったことで仲良くなり、時々すしぱくさんからの技術的な質問に答えるような関係になりました。

すしぱく:で、ぱくたそが100万PVくらいになったときに、「これはもう1人ではムリだ」と感じて、Yuuさんに「一緒にやろう」と声をかけたんです。

――2人とも本業は別にあるわけですよね?

すしぱくさん:はい、僕はカメラマンとデザイナーとサーバー保守。Yuuさんはデザイナーであり、ウェブ制作会社の経営者でもあります。

――どのような体制で運営しているんですか?

すしぱく:Yuuさんはもともと開発が本業なので、何でもできてしまうんですよ。だから、全部任せてしまうと、逆に僕が何もできなくなってしまう。Yuuさんが何かしらの理由で対応できなくなったら、その間サービスが止まってしまうわけです。

外注ではなく共同で運営しているのは、そうならないように、Yuuさんにいろいろと教えてもらいながら、僕も自分にできることは自分でする、というのが目的でもあります。

Yuu:属人化しない、させない、というのはどこの開発現場でも課題ですよね。そうならないように、心がけています。

すしぱく:契約書に明記しているんですよ。Yuuさんは経営者で、家族もいる。本業や家庭が忙しいときは、ムリをしなくていいですよ、と。

――それ、おもしろいですね(笑)。

Yuu:まあ、ぱくたそは"仕事"というつもりではないんですよ。直したいところを直しているだけ、というか。仕事じゃないから、制限をかけなくていい。「予算がこれくらいだから、これくらいまでしかできない」「交渉しよう」みたいなことをしなくていいんです。週末プロジェクトのような感覚かも知れません。

サービスの核は写真ですから。その写真へのこだわりだけあればいいと思っているんです。それはすしぱくさんが、ちゃんと持っているので。

――すしぱくさんはやっぱり、写真が好きなんですか?

すしぱく:いや、実は、あんまり......。

Yuu:(笑)。

――好きじゃないのかよ!

すしぱく:写真が、というよりは、撮影した写真をみんなが喜んでくれるのが好きですね。

――なるほど。それはフリー素材にも通じるところがありますね。

Yuu:結局、僕も楽しいからやっているんだと思いますよ。

すしぱく:おっ、Yuuさんも。

――自分で「楽しい」と思えることって、本当に大事ですよね。"楽しければいいのです。"は、本当にいいコピーだと思います。今日はありがとうございました。